道は、必ずひらける。

WAYS Your dreams, Woven together.

Produce by 朝日インテック

“道”を創るTopics

Vol.5
新しいコンセプトの手術支援ロボットで
日本、そして世界の医療に貢献する

高齢化社会の進展にともない、医療を必要とする人々が増える一方で、医師不足が社会問題となっている。その解決の一助として期待を集めるのが、医療現場のDX化やロボット活用だ。
朝日インテックではこの問題に立ち向かうため、国立がん研究センターの認定ベンチャーとして設立されたA-Tractionを子会社化。その後、朝日サージカルロボティクスに改称し2023年には、腹腔鏡手術における助手の役割に特化した協働型助手ロボット「ANSUR(アンサー)」を世に送り出した。
国立がん研究センターとともにANSURの開発を行う医療ベンチャーを立ち上げ、現在は朝日サージカルロボティクスの最高開発責任者を務める安藤岳洋にANSURのWAYS(道)を聞いた。

論文がゴールだった研究者時代
社会実装のためにベンチャー設立

身体への負担の少ない低侵襲治療を究極的に追究すべく、「患部・治療領域の拡大」「新規事業の創出」を中長期戦略に掲げ、グローバルニッチNO.1企業を目指す朝日インテック。「新規事業の創出」においては、次世代ガイドワイヤーや、スマート治療などさまざまな施策があるなか、ロボティクスを武器に突破口を開こうとしているのが安藤だ。

彼の経歴からは、「生粋のエンジニア」像が垣間見える。
2003年、高校2年修了後に飛び入学で、千葉大学工学部電子機械工学科FTコースへ入学という異色の経歴。本人は、「小さな頃からラジコンや工作キットといった“動くもの”や、構造の複雑な生きものが好きでした。高校の頃は自由研究に熱心で、その姿を見た物理の先生から飛び入学の話を聞いて。早く深い学びを得たいという思いで挑戦したことを覚えています」と振り返る。

千葉大学卒業後の2007年、東京大学大学院工学系研究科に入学し博士号を取得、その後、医学研究科を経て工学系研究科の助教に就任する。「修士時代は、蛍光物質を使って脳腫瘍をいかに精密に摘出するかの研究を、博士号取得後は心筋梗塞治療のため、心臓の梗塞部や虚血部を測定するデバイスの開発をしていました」と安藤。この頃には、自身の幼い頃からの興味関心が、工学と医学を組み合わせた「医用工学」へと昇華していた。

2012年秋、そんな安藤のもとに、あるプロジェクトの話が舞い込む。
国立がん研究センター東病院 大腸外科長(副院長・医療機器開発推進部門長・先端医療開発センター 手術機器開発分野長 併任)の伊藤雅昭医師から、研究室の佐久間一郎教授のもとへ入った、「医工連携の基盤づくり」の相談。脳や心臓の研究をしていた安藤にとっては、ほとんど触れたことのない消化器分野がテーマだった。 「アカデミアでは研究を経て論文発表がゴールです。『これはいつ臨床で使えるの』という質問も多く、自分の中でフラストレーションが溜まっていました」と、安藤は当時感じていたジレンマを教えてくれた。そんな矢先に、ベンチャーで医療機器を作るという願ってもない機会。「ぜひやってみたいと感じました」と当時の意欲を振り返る。

とはいえ、当時の安藤には起業家精神はなく、ベンチャーの知識もゼロに等しい状態だった。しかしベンチャーについて学ぶほどに、「世間で思われているような大きなリスクはない上に、大きな成長の可能性がある新しいサービスや製品を開発するのに適していることを知った」と話す。こうして安藤は2015年、国立がん研究センターの認定ベンチャーであるA-Tractionを設立し、代表取締役に就任した。

時間、コスト、医療特有の環境
立ちはだかる壁を一つひとつ超える

高齢化が進む日本では、医師不足が問題となっている。中でも手術件数の増加などから、外科医不足は特に深刻だ。労働環境の改善を図って医師志望者を増やす必要があるが、他方で取り組まなければいけないのが、医療にデジタル技術を活用して、効率化や質の向上を図るDXと、医療ロボットの活用だろう。
医療ロボットといえば、アメリカのインテュイティブサージカル社が開発した内視鏡手術支援ロボット「ダビンチ」が知られたところだ。医師が3次元立体画像を見ながらロボットを操作し、アームが人間の手の動きを再現しながら低侵襲の腹腔鏡手術を行う。

「先駆者」であり「一強」であるダビンチや類似製品に対して、安藤らは全く新しいコンセプトの手術支援ロボットの開発を進めようとしていた。
ところが、数々の障壁が立ちはだかる。
「ロボットは部品点数がとても多く、このプロジェクトではざっと5〜6,000点。一つの部品に対して図面や知財、治具、品質検査などの項目があるため、時間もコストも膨大になります。さらに電気回路やソフトウェアを組み合わせていくため、エンジニアの担当範囲は広大。一つのトラブルを解決するために、確認すべきルートも複雑です。さらに手術環境で使うための衛生面への配慮、医師の側で使うことを想定した稼働範囲の設定など、考えなければいけないことは山ほどありました」。

理想のロボット開発のため、一つひとつ壁を乗り越えていく安藤らA-Traction。元より出資をしていた朝日インテックは2020年、A-Tractionが開発する腹腔鏡手術支援ロボットの薬事申請や交換部品の受託製造を担い、開発の後押しをする。そして、2021年3月には完全子会社化し、7月にA-Tractionは朝日サージカルロボティクスと社名を変更した。
安藤は、「研究室でも朝日インテックの製品を使っていて、ワイヤーのテクノロジーを突き詰めている会社という印象を持っていました。子会社になってからは、エンジニア、バックオフィスともに人財が強化され助かっています」と、朝日インテックの印象や子会社化のメリットを語る。

医師不足の解決につながる
もう一人の外科医「ANSUR」

こうして2023年2月に承認取得を終え、これまでにない新しい腹腔鏡手術支援ロボットが誕生した。その名は「ANSUR(アンサー)」。”Another Surgeon”の略、つまり「もう一人の外科医」だ。
腹腔鏡手術では、執刀医とは別に2人の外科医が必要となり、1人が助手、もう1人がスコピスト(内視鏡を操作して映像をモニターに映し出す)を務めるのが一般的だ。ANSURでは執刀医が通常の手術器具を持ちながら、指に装着したトリガーや足元のペダルを使って、助手2人分の器具の操作が可能となる。
安藤は、「ANSURを使うことで、助手を務める2人の医師が解放されることにより、他の手術を担当できることもあれば、ワーク・ライフ・バランスの実現につなげることもできます。また、人の場合は習熟度やコンディションが影響しかねませんが、ロボットであれば精度を均質に保てるというメリットもあります」と、ANSURの利点を教えてくれた。

助手の役割に特化した「協働型助手ロボット」ANSUR


2024年4月には、名古屋市立大病院でANSURを使った腹腔鏡下での胆のう摘出手術に成功。2012年秋に伊藤医師からの連絡を受けてから、10年以上の月日が流れていた。
「日本の医療機器業界、ベンチャー業界を見渡しても、ここまで至れるのは数少ないため、嬉しさもひとしおでした。ただ、これは第一歩であり、ようやくスタートラインに立てた状態。ドクターからの指摘を反映しながら改良を進め、稼働台数を増やしていくのが次のステップになります」と、臨床成功の喜びとともに、新たな決意を聞かせてくれた。

次のフェーズへと入った安藤とANSUR、そのWAYSとは──。
「日本は高齢化社会における先進国であり、この課題はいずれ世界へと広がります。ANSURは海外の医師不足の解決もできると考えますので、輸出へ向けての仕様変更を進める予定です。将来的にはANSURの自動化も構想に入っています。僕自身、自分が楽しいと思えることをやり続けたい。どんな立場になっても、ものづくりはずっと続けていきたいですね」。

「生粋のエンジニア」の情熱が、一つの手術支援ロボットとして形になり、日本と世界を変えようとしている。
子どものように輝く安藤の目には、ANSURの次なるロボットも映っていた。





▼プロフィール

【安藤 岳洋 TAKEHIRO ANDO】
2003年、千葉大学工学部電子機械工学科 FTコースへ飛び入学。2007年、東京大学大学院工学系研究科に入学、博士号を取得。医学系研究科を経て、工学系研究科で助教を務める。2015年、国立がん研究センター発ベンチャーとなる株式会社A-Tractionを立ち上げ、代表取締役社長に就任。2021年、朝日インテックの子会社となり、社名を朝日サージカルロボティクス株式会社に変更、現在に至る。



写真=太田昌宏(スタジオアッシュ)

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