2026年1月、倉敷中央病院で行われた朝日インテックプレゼンツの院内ライブ。ステージに立ったのは、歌手であり一般社団法人gigi発起人の一青窈だ。
一般社団法人gigiは、一青窈を中心に、長期入院などでライブに足を運ぶことが難しい人々に向け、病院や養護施設などで歌を届ける活動を続けている。朝日インテックはその理念に共感し、2024年7月に一般社団法人gigiとスポンサー契約を締結。社会貢献活動の一環として、困難な状況に置かれた方々に元気や感動を届ける同法人の活動を支援している。
ライブ直後に行われたインタビューでは、病院で歌うことの意味、活動の原点、そして自身が大切にしてきた信念について、途切れることなく言葉が紡がれた。
INDEX
「毎回、私のほうが感動をもらう」
体と楽器で「聴きたい」曲を再現
YO HITOTO
本日のライブを終えられて、率直な感想をお聞かせください。
毎回そうなんですけど、私のほうが感動をもらっちゃうんですよね。
やっぱり、主役は子どもたちだなって思います。歌いはじめると、その場の反応が毎回違っていて。今日も一緒に歌ってくれた子がいましたよね。
予想できないんですけど、その時間に立ち会えるのが楽しいですね。
ご自身の曲の他にも、アニメソングやJ-POPなど、リクエストに応えられていました。
初期の頃は、こちらの方で、いらっしゃる年齢とかを考慮して、歌う曲は何にしようか考えたりしていました。
社団法人を立ち上げて、子どもたちに向けてやるっていった時に、せっかく行くなら、子どもたちがいつも聴いている歌とか、歌ってほしい曲とかがあったら、それに応えようよって。
でも本当は、今あそこにいる子どもたちが聴きたい音楽を生で聴くのが一番いいと思っていて。だから、みんなが好きなアーティスト本人が来るのがいいと思うんですよ。
私たちは、たまたまそれを、体と楽器を使って再現しているだけで。
最初は患者さんのほうが少し緊張されている印象でしたが、最後の集合写真では、みなさん本当にいい表情でした。
途中で、先生たちにマイクを向けたりすると、ちょっと雰囲気がやわらかくなるんですよね。
普段はどうしても、上下関係があるように見えてしまうじゃないですか。「よろしくお願いします」っていう立場だったり。
でも、先生に質問をして、「嫌いな食べ物は何ですか?」とか、「趣味は何ですか?」って聞くと、「ピーマンが嫌い」だとか、「クラリネットやってます」とかが分かったりして。
そうやって、その先生の知らなかった面を見ることで、「先生」っていう存在じゃなくて、同じ「人間」だっていうことを、一枚ずつ剥がしていく作業ですかね。
すべては、病院で見た
母の姿からはじまった
病院や養護施設でのライブ活動の原点について、教えてください。
私が中学3年生の頃、母が入院していたんですが、その頃私はあんまり実感がなかったんです。
しかも、がんだとは言われていなかったから、あまりお見舞いも行かずにいて。
気づいたら、もう余命が明日あさって峠かも、というところまで進行してしまい……。
その入院中に、たった一回だけ行ったミュージカルがあって。
抗がん剤治療で、みるみる痩せて、目も見えなくなっていたんですけど、その帰り道、母の目が本当に輝いていて。「え、目、見えてる?」って思うくらい元気で。
あの時、「ああ、歌ってこういう力があるんだ」って。
これはもう、こういう歌を歌う人になりたいなって思いました。
ちょうど歌の意味みたいなことを考える多感な時期に、そういう経験があって。
その流れでデビューということがあったので、私の中では、歌手生活のすべては、病院が原点なんです。
2023年に一般社団法人gigiを設立されましたが、活動を続けるうえで、大切にしているスタンスはありますか。
無理をすると、クオリティが下がる。クオリティが下がると、伝わらない。つまり、聴いている人が元気にならない。
だから、無理をしない、というのは徹底しています。
それと「一青窈色を出したい」とはあまり思っていないんです。
私じゃなくていい、という感覚のほうが強くて。
有名な人が来るとか、「一青窈が歌ってくれた」ということが目的にならないほうがいい。
この活動は、誰かが主役になるためのものじゃないし、私が前に出る必要もない。
だから、私じゃなくても続いていく形にしたい、というのは、ずっと思っています。
病院でのライブは、普段のツアーとはかなり環境が違いますよね。
普段のライブとは、全然違いますね。PA(音響スタッフ)さんも毎回違いますし、いつもテレビとかツアーで一緒にやっているメンバーとは違う。
その地域ごとに、「このあたりだったら、こんなミュージシャン呼べるよ」っていう形で集まるので、私にとっても、すごく刺激になります。
嘘をつかないことを
言葉と歌に引き受ける

朝日インテックとの取り組みについて、どう感じていらっしゃいますか。
カテーテルって、出産の時に無痛分娩で背中に入れた時に、初めてちゃんと認識した名前なんです。
でも、確かに病院になくてはならないものですよね。
違う場所で支えている人たちと、一緒に病院ライブができるのは、ただスポンサードしてもらっている、という感じとは違って。
この子たちが元気になるために、朝日インテックの製品があって、その横で歌っている、そんな感覚になります。
一青窈さんにとって、WAYSのテーマでもある「信念」は何ですか。
「嘘をつかない」、ですね。
もちろん、優しい嘘とか、ちっちゃな嘘をついちゃうことはありますけど。
でも、何かを伝えようとしている時に、素直でいることが、いちばん伝わると思っていて。
今の、不完全な自分で、何が伝えられるか。
自分にも嘘をつかないし、相手にも嘘をつかない。
それをすごく大事にしています。
10秒先の明日を
一緒に生きていくために

gigiのミッション「明日を生きる力に変える歌を歌いたい」に込めた思いを教えてください。
入院していると、「この先どうなるんだろう」とか、毎回、闘いながら過ごしていると思うんです。
でも私自身は、10秒先くらいのことだけ考えていればいい、と思っていて。
明日頑張れば、その次の明日が来る。
そのくらいの距離感で、一緒に歩いていけたらいいな、と思っています。
長く活動を続ける中で、心が折れそうになったことはありますか。
心は折れないですね。なぜなら、大好きな音楽だから。そして、仲間がいるから。
一緒に歌うと、なんとなく一体感が生まれる。それがあるから、「もうダメかも」って考える余地がないんです。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
できれば病院には行きたくないですよね、誰だって。でも人生の中で、関わらないわけにはいかない。
だったら、その空間を良くしたい。歌があって、朝日インテックさんの機器があって。
みんなで、「楽しい病院」にできたらいいな、って思っています。

歌手/作詞家/一般社団法人gigi 発起人
一青窈YO HITOTO
東京都出身。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期を台北で過ごす。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)卒業。在学中より音楽活動を行う。2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。翌年、日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞し、NHK紅白歌合戦に初出場。5thシングル「ハナミズキ」はロングヒットとなり、現在も国内外で広く歌い継がれている。2008年には日本武道館公演を開催。俳優・作家としても活動し、表現の幅を広げる一方、学生時代から関心を持っていた音楽療法の実践として、病院や児童養護施設での歌唱を継続し、2023年には一般社団法人gigi(https://gigi.jp/)を設立。2025年7月、最新曲「アレキサンドライト」をリリース。










